小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1645 走ることの意味 わずか150メートルでも

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 遊歩道を歩いていると、走っている人が目につく。もちろん、私のように散歩をしている人の方が多いのだが、足取りも軽く走っている人を見ると、つい私も走りたくなる。だが、そうは行かない。右足の故障が完全には回復していないから、無理はできない。それでもやってみた。結果はどうだっただろう。  

 昨年9月、右足の膝周辺の大腿四頭筋断裂というけがをして、病院に入院して手術を受けた。それから間もなく7カ月になる。けがの前は、当然のようにジョギングもできたし、歩くことに全く違和感はなかった。足は丈夫だったから、このような状況(手術、1カ月の入院、リハビリ……)に陥るとは想像もしていなかった。想定外だったのだ。  

 退院後も昨年いっぱいリハビリに通い、理学療法士の世話になった。並行してスポーツジムでマシンを使って自主的にリハビリを続けている。朝日新聞に「続・元気のひけつ 太ももを鍛える」という記事(14日付朝刊)が載っていた。それによると、筋肉は25歳~30歳をピークに減り始め、特に40~50歳から太ももの筋肉は減り方が激しく、何もしないと80歳で30歳の半分ぐらいに減ってしまう(筋生理学専門の石井直方東大教授)という。私の場合、太ももだけでなく右足全体の筋力が激しく落ちていた。マシンを使うとそれが分かった。負荷を一番低く設定しなければ、マシンが使えなかったのだ。これではいけない。  

 そんな思いを抱え、継続してマシンや階段踏みのリハビリを続けた。その結果なのだろう。最近次第に筋力がついてきたことを実感するのだ。現実にマシンの負荷も以前よりかなり大きくセットできるようになった。だが、右足を踏ん張ることに自信はつかない。速足はできても走る勇気はない。そんな不安な気持ちを抱えながらジョギングする人たちを見る日々が続いた。それでも、きょうになってやってみる気持ちになった。少し自信がついたのだろうか。  

 恐る恐る走り出す。右足の踏ん張りは何とかできるが、バランスが不安定だ。背中を丸めないよう、意識して背筋を伸ばす。何とかそのままの姿勢で150メートルほど走り抜くことができた。近くを歩いている人から見れば、ジョギングにもなっていないかもしれない。そんなスローペースの走りだった。退院する際、医師や理学療法士から「絶対に転ばないように」と注意されていたから、退院後無理はしていない。階段の上り下りもできるだけ手すりを使うようにしている。それでも、こうして少しだけでも走ることができたので、筋力も回復しつつあるのだろう。  

 早大陸上競技部監督を務め、 マラソンの名ランナー、瀬古利彦を育てた中村清は「若くして流さぬ汗は、年老いて涙となる」といって、選手たちを厳しく指導したという。いま汗をかいて一生懸命にトレーニングに励まないとあとで後悔する――という意味だろう。私もこの言葉を思い浮かべながら、筋力の鍛錬に取り組み、少しずつ走る距離を伸ばしていきたい。無理は禁物なのだが……。

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