小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1330 房総のムーミン谷 いすみ鉄道のお正月

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 お正月に売り出される福袋は、江戸時代から始まったという説があるが、詳しい由来はよく分からない。しかし現代日本の正月の恒例行事になっていることは間違いない。中国の観光客が東京のデパートを回って20個の福袋を買ったという報道もあるように、その中身はお買い得なのだろう。

 フィンランドを舞台にした小説に出てくる妖精「ムーミン」をキャラクターにして頑張っている千葉県の小さな鉄道、いすみ鉄道でも福袋を売り出した。大原―上総中野間26.8キロという短い区間を走る鉄道の大原から4つ目の国吉駅だ。

 正月の2日に売り出したのはムーミンの福袋(5400円)といすみ鉄道福袋(3240円)である。ムーミンの方は先着10人にしか売らないという貴重な福袋だが、家族は何とか手に入れた。 国吉駅は、ありふれた地方の駅舎だ。

 だが、小さな駅舎の中には売店があって、人が入りきれないほどだ。駅舎内では甘酒がふるまわれ、ホームではいすみ鉄道応援団による餅つきと餅のサービスがあった。反対側のホームわきは木造りのムーミンがいる広場になっている。広場には風がそよいでいる。この駅は「風そよぐ国吉駅」と呼ばれている。 整理券をもらって6番目に福袋を購入した。

 ファッツェル社のトレイやトーベヤンソンムーミンの作者)生誕100年記念のビスケットなど、その中身は期待以上のものだった。福袋を買った人たちは中身を見てみな驚いた表情をしている。精一杯の努力の成果がこの福袋に示されたのだと思う。 この短い鉄道が注目を集めたのは、キャラクターにムーミンを使い、さらに自費で700万円という訓練費を負担して運転士の免許を取った4人を採用したことだ。

 これらによって赤字経営が黒字になったのだから、この鉄道の運営はアイデアにあふれているのだろう。 いすみ鉄道の鳥塚亮社長は、ムーミンをキャラクターに使った理由を「ムーミン家族が仲よく暮らしていること、自然豊かな環境に住んでいていすみ鉄道沿線の房総半島に似ていること、話には筋が通った哲学があること、男性より女性の方がムーミンを好きなこと、奥さんもムーミンが好きなこと」を挙げ、これらの理由で「女性が笑顔で暮らせば、世の中は平和になると思う」と結んでいる。

 ムーミンと言えば、童話かと思う。しかし、鳥塚社長が言うように、ムーミンの物語には哲学があり、大人の小説でもあるのだ。国吉駅ホームはムーミン列車を利用してやってきた人たちであふれそうだった。そんな人たちは、つきたての餅を提供され、舌つづみを打っている。

 帰りにのぞいた大型ショッピングエリアの店では、売れ残った福袋の封を開け、中身を見せていた。これでは袋を開ける楽しみはなくなってしまい、福の神も逃げてしまうのではないかと思うのだが……。それでも店にとっては売れ残るよりはましということなのだろう。

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線路の両側に咲き乱れる菜の花いすみ鉄道を目指して

ムーミン電車とコスモスと 秋色を見に行く

どうせなら、夢を求めたい 映画「RAILWAYS」

雛祭り終え菜の花の季節 ある句会にて