小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1290 hana物語(32) つぶやき9

画像「飼い主の愛情が一番のごちそう hanaのつぶやき」

  私の主治医は、おじいちゃん先生です。ふだんは苦虫をかみつぶしたような、愛想のない顔をしています。私はつい最近7歳になりました。優しい家族の家に飼われていますが、夏の暑さには参ってしまい、このおじいちゃん先生に時々お世話になるのです。

  先日、家族と一緒に先生のところに行きました。フィラリアの薬をもらうのと定期健診です。その前に体調を崩して駆け込んだばかりでしたので、先生はまたかという顔をしていました。私が診察台に上がるのを嫌がると、いつもは手伝うことはしないのに、今度は後ろに回って、手伝ってくれました。

  体重は26キロくらいなので、同じ仲間に比べるとそう大きくはないのですが、私を持ち上げるのは人間でも簡単ではないのです。診察台に上げてもらうと、いつもは「この犬は大丈夫ですか。かみついたりはしませんか」と聞くのですが、そんな質問はなく、優しく私の体を撫でてくれるではありませんか。

  私は大人しくしていました。すると、先生も難しそうな顔をほころばせて、家族に言うのです。「この子にとっては、飼い主さんの愛情が一番のごちそうなのです」。いろいろな物を食べさせたりするよりも、愛情を持って優しく接することが大事ですよということなのでしょうか。

  診察台の上で、私は泣きたいくらいうれしくなりました。私の思っていることを先生は見事に代弁してくれたのです。私の家族はふだんから先生の言うよう接してくれていますが、こんなことを言う先生はこの日、きっといいことがあったに違いありません。

  私は人間の食べものに興味があり、家族が食べているものは何でもほしくなります。果物は大好きで、スイカや桃には目がありません。そしてヨーグルトは一番の好物です。「お父」から時々ヨーグルトの残りをもらいますが、そのときが一番の幸せのように思います。あ!ママからもらうご飯も甲乙つけがたいことを付け加えます。

  それから、そうですね、最近ではあの苦味のあるゴーヤ(ニガウリ)も好きになりましたよ。「お父」が、スライスしたゴーヤの上にカツオ節をかけ、しょう油で食べているのを見ておいしそうだなと思っていました。でも、少しだけもらって初めて食べたときには吐き出してしまいました。

 それなのに、キャベツに混ぜてもらったときには、けっこうおいしく感じたのです。それでつい、キャベツなしに、ゴーヤだけでも食べるようになりました。変ですかねえ。

 ところで、年々夏の過し方が大変になりました。過保護といわれるかもしれませんが、朝夕の散歩があまり楽しくないのです。もう暑くて、暑くてたまらないのです。7月も最終の週に入りました。この我慢もあと2ヵ月程度、おじいちゃん先生のお世話にならないよう頑張りたいと思います。でも、雷は怖いなあ。きょうの夕方もありました。参ったなあ。(2009・7)

 「爪楊枝を飲み込み大騒ぎ」 hanaのつぶやき(第1章と重複しますが、hana側からの見方です)

  9月になりましたね。このところ涼しい日が続いて、暑がり屋の私も少し元気を回復しました。でも、きのうは私にとって、大変なことがありました。

  何でも食べてしまう癖が原因なのですが、家族には心配をかけてしまいました。実は、朝ママから果物の梨をおすそわけをしてもらっているうち、梨についていた爪楊枝ごと飲みこんでしまったのです。

  その後、私は特に気にはなりませんでしたが、ママたちが心配して、近所の動物病院のおじいちゃん先生のところに私を連れて行きました。おじいちゃん先生は、難しい顔をして「うちでは設備がないので、どうしようもない」と言いながら、心配なら設備の整った病院があるのでそこへ行きなさいと紹介してくれました。

  その動物病院は車で1時間以上離れた場所にあります。家族の車に乗って、病院に向かいました。気分は悪くないし、大好きなドライブができるのでうれしくてたまりませんでした。病院は国道沿いにあり、新しい建物でした。人間の病院といっていいほど立派な建物です。おじいちゃん先生の紹介があったので、大きな病院の先生はあまり待たせることなく診察してくれました。

  病院の中は2つの診察室や手術室、ICUがあり、すべてガラス張りで病院にきた人たちには、どんな治療がされているか分かるようになっています。私はママと一緒に診察室に入り、先生に事情を話しました。すると、先生は「爪楊枝といって、軽く見てはだめです。内臓のどこかに刺さったままだと大変です」と話し、除去するには2つの方法があると説明しました。

  1つは、吐き気を催す薬を使って、食べたものと一緒に吐かせること。それがだめなら内視鏡を使って、爪楊枝がある部分を調べ、メスで開腹して取り出すというのです。その説明を聞きながら、ママたちは心配になったのか泣いていました。私は2人がなぜ泣いているのか不思議でした。

  1つ目の方法が試されました。私は右足に注射をされました。「キャーン」と泣いてしまいました。こんな痛い目に遭ったのは初めてだったからです。注射が終わって診察室から出て待合室で待っていると、5分くらいして急に吐き気が催してきました。そのままそこで吐いているのを診察室から先生たちが見ています。吐き終えると動物の看護師さんがやってきて、吐いたものを調べていて「爪楊枝がありましたよ」と叫びました。その声を聞いて、ママたちはまた泣いていました。

  心配だったのでしょう。でも、おじいちゃん先生と大きな病院の先生のお陰で、問題は解決しました。すごい連携だと思います。大きな病院の先生は、病院の中にある仮の宿泊施設に寝泊まりして、夜の緊急医療もやってくれているそうです。そんな先生を頼って、結構遠くから時間をかけてやってくる飼い主もいるらしいですから、信頼されているのでしょう。

  この騒ぎを家族から聞いた「お父」は、私の頭を撫でながら「ハナは食いしんぼうだからなあ」と笑っていました。爪楊枝くらいで死ぬわけはないと思いますが、家族に心配をかけたのは失敗でした。食べることが一番好きな私ですが、何でも口にすることは反省ですね。でも、やめるのはむずかしいなあ。(2009・9)

 

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