小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1251 イルカに救われた人生 時の人になった北海道の笹森さん

画像 北海道でクジラウオッチングを続けている笹森琴絵さんが「日本クジライルカウオッチング協議会」の初代会長になり、朝日新聞の時の人ともいうべき「ひと」(7月16日付)欄に紹介された。

 昨年6月、室蘭市で笹森さんにお会いして話を聞いたことがあるが、「ひと」の記事を読んで海を愛する笹森さんを思い出した。

 朝日新聞の記事にも出ているが、笹森さんがクジラウオッチングへ進むきっかけは交通事故に遭ったことだった。失意のどん底から笹森さんを救ったのはイルカの存在だった。

 室蘭市で生まれ育った笹森さんは、大学卒業後北海道内で教師生活を始めた。3年目に入ったとき交通事故に巻き込まれてムチ打ち症となり、膵臓の病気を併発、体重も38キロまで激減し失意の中、勤務していた中学校を退職せざるを得なかった。

 その後、病気が回復した笹森さんに室蘭沖・噴火湾海洋動物観察協会のイルカ・クジラウオッチングのガイド募集の話が舞い込んだ。1996年のことだった。噴火湾ではイルカの大群が悠々と泳いでいた。イルカを目にした笹森さんは、体の中から力がわいてくるのを感じたという。

 このガイドがきっかけで98年に室蘭市で開催されたイルカ・クジラ国際フォーラムでは事務局を担当することになり、国内外の研究者の論文を読むなど海洋生物について猛勉強する機会を得た。こうして笹森さんは海洋生物や海洋の環境問題が天職のように思い、この活動にのめり込んでいく。

 2007年には環境教育と海洋調査を目的に「Orca.Prgさかまた組」(さかまたはシャチの別名)という団体を結成。北海道近海の海洋生物を中心にエコツアー、講演会・教育展示、海洋生態系調査を続けている。釧路沖に生息するシャチを「釧路のシンボルに」という夢も持っている。

 笹森さんは、海とのかかわりについて「第二の人生に導いてくれたのはイルカです。海は広くて深く、はてしないが、海とのかかわりを持って私の人生も深くて豊かなものになったのです」と話してくれた。

彼女の人生は、交通事故によって暗転した。しかし、偶然にかかわったイルカ・クジラウオッチングのガイドの仕事が、彼女の人生を負から正へと転回させた。

「環境教育や地域の資源としてウオッチングが持つ大きな可能性を、多くの人に伝えたい」(朝日新聞「ひと」より)という言葉は、笹森さんの海への思いをよく伝えている。

旅の終わりに