小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1249 若きエースの肱の故障 田中投手は「勤続疲労」なのか

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 大リーグ・ヤンキース田中将大投手が、肘のけがで当分戦列を離れることになったというニュースは衝撃的だった。野球の投手にとって肘や肩の故障は致命的なことが少なくない。それだけに野球というスポーツで肘と肩には負担がかかっているといえるだろう。田中の故障については、得意球といわれる「スプリット」を多投したことが原因との見方も出ている。

 田中は25歳。これからが全盛期を迎える年齢だ。若さでけがを克服してほしいと思うのだが……。 日本で一流といわれ、大リーグに行った日本の投手はなぜかけがに見舞われる。あの松坂をはじめ、藤川や和田、そして田中である。

 日本と比べて大リーグ(米国)のマウンド(投手がボールを投げる円形の区域で、周囲よりも高い)は傾斜が大きく、土も固いそうだ。そのために日本のマウンドで慣れた投手は利き足を踏ん張ることができずにフォームが乱れ、肘や肩に負担がかかってしまうという。

 田中の場合、得意球であるスプリットという変化球による故障説が流れている。この球種は、投げる時に手首を固定するため肘に負担がかかり、現在大リーグでこれを投げる投手は少なくなっているというのである。

 以上の2つの背景に加え、大リーグの投手は投球数が100球前後で交代するものの、試合数が多く、場合によっては4日の間隔で登板しなければならず、しかも移動距離も日本よりも格段に長い。疲労がたまるのは日本の比ではないだろう。 この3つに加え、田中は高校野球の名選手というプロフィールがあるように、年齢が若いにかかわらず、少年野球から始まって野球年齢はそう若くはない。

 それは高校野球で田中のライバルとして騒がれ、東京6大学でも活躍しながらプロに入ると芽が出ない日本ハムの斉藤祐樹にも言えることである。 斉藤は田中より早く肩の故障に泣いた。いくら頑丈な体でもこれまで酷使された結果、故障という爆弾が彼らの体をむしばんでいたのだろうと思う。松坂もしかりだ。彼らの故障はいわば「勤続疲労」が一因なのかもしれない。

 BS放送で、田中やダルビッシュが出る試合の中継を見るのが楽しみの一つだった。しかし解説者、アナウンサーは目の前のゲームの話をするだけで、放送の中で田中やダルビッシュの得意の球種の特徴、特に投手に与える影響や日米の野球の違いについて説明をしているのを聞いたことはない。

 だから、私は何も知らずに、田中の活躍を手放しで喜んでいたのだ。大リーグをよく知る人に比べ、無知なファンだったのである。 田中の故障ついでに日本のプロ野球が最近つまらなくなったことを思い出した。醍醐味である本塁打を日本人選手が打てなくなってしまったからだ。

 日本のプロ野球本塁打は外国人選手の代名詞になって久しい。高校野球の指導者がチームプレーを優先する結果、ホームラン打者を育てないということが背景にあり、プロ野球もその延長線上にあるからだという報道に合点がいった。

 サッカーでいえば絶対的エースよりもチーム力優先ということなのだろうか。ブラジルのW杯で勝てなかった日本チームは、まさにこの姿だった。

 写真 長い間、花が咲いているねむの木。田中もこの花のように、現役を長く続けることができるか。