小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1201 天から送られた手紙 大雪は何を持ってきたのか

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 物理学者(雪氷科学者)で随筆家だった中谷宇吉郎は「雪は天から送られた手紙である」という言葉を残している。雪の研究に没頭した中谷は、北海道・十勝岳の麓で雪の結晶を撮影し、1936年(昭和11年)には北海道大学の低温研究所で、兎の腹毛を使って世界で初めて雪の結晶を人工的に作り出すことに成功。気象条件と雪の結晶形成の関係を明らかにしたことで知られる。

 8日、関東地方の太平洋岸にも大雪が降った。この大雪は、どんな手紙を天から持ってきたのだろう。 気象庁の観測によると、この大雪で東京では27センチ(都心部は23センチ)が積もった。千葉市では66年の統計開始以来の最大値(これまでは84年1月19日の26センチ)を更新する33センチの積雪を記録した。

 わが家の庭のガーデンテーブルに積もった雪を物差しで測ってみたら35センチだった。周辺の遊歩道の街路樹のクスノキの枝が折れ、モミの木の枝も地面すれすれまで雪の重みで下がってしまった。この地域に住んで26年になるが、初めてのことである。

 家族の一人は8日夜、帰宅するために乗ったJRの電車が立ち往生し、5時間も電車の中に缶詰め状態になり、結局わが家に帰ることができず9日未明になって親類の家にたどり着いて、泊めてもらった。

 このJR沿線のホテルに電話をしてみたが、どこも満室だった。私立大学の入学試験も重なって、東京やその周辺のホテルは大忙し状態だったらしい。 9日朝になって、近所ではスコップを持った人たちが道路に積もった雪の除雪作業を自発的にやり、私もその仲間に入った。

 ふだんめったに顔を合わせないアパートの人たちも出てきていた。このような共同作業は年末の大掃除ぐらいしかやらないので、近所の顔合わせという意味でも、大雪効果はあったに違いない。 中谷は「雪の話」という随筆を書いている。

 その中に「誰かがいわれたように氷雪を思慕するという心情がわれわれの何処かに秘められていて…」という一節がある。ちょうど、ロシアのソチで第22回冬のオリンピックが始まった。冬のオリンピックこそ、まさしく氷雪を思慕するスポーツといっていい。 かつて、東北や北海道に住み、雪には慣れているつもりである。

 しかし冬は太陽が毎日のように顔を出し、雪とはほとんど縁のない地域で長い間暮らしていると、今回のようなドカ雪に見舞われると氷雪に対する思慕よりも、驚きの方が多いのは確かであり、異常気象のことを考えてしまう。

 中谷夫人の静子さんは、中谷宇吉郎随筆選集第1巻の月報に「中谷にささぐ」として「天からの君が便りを手にとりて よむすべもなし春の淡雪」という短歌を載せている。立春が過ぎたとはいえ、春が程遠いことを覚悟しなければならないかと思わせた大雪だったが、きょうの午後にはどんどん融け始めている。

 鶯の初音の時期も近づいている。72候の「黄鶯睍睆く(うぐいすなく)」(立春次候)は今ごろを言うそうだ。

 写真 1、わが家のガーデンテーブルの積雪は35センチだった 2、それを使って、雪だるまの顔にした 3、4、遊歩道の街路樹(けやきとクスノキ) 5、近所の雪だるま 6、7街路樹のモミの木 8、除雪作業をするアパートの人たち

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