小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

1088 選手の人生狂わす五輪 ピストリウスお前もか

 義足のランナーとしてロンドン五輪に出場した南アフリカオスカー・ピストリウス選手(26)が恋人で弁護士の女性を射殺した事件が注目を集めている。私もこのブログで過去2回、ピストリウス選手のことを取り上げている。殺人事件に加え、ドーピング疑惑も出ているという。五輪出場によって彼は変わってしまったのだろうか。

  五輪というスポーツ界の最高峰は、スポーツ選手にとって大きな夢だ。出場を果たし、メダルを獲得した選手は「英雄的」扱いを受ける。ピストリウス選手は、メダルこそ得ていないものの、義足というハンディを乗り越えて最高峰の舞台に立ち、南アの英雄になった。そんな中で、自宅浴室にいた恋人に向け銃を発射し、殺害してしまった。「強盗と間違えた」という本人の弁解と計画的殺人という検察の主張は全く異なる。さらに禁止薬物の筋肉増強剤や注射器が自宅で見つかったという報道もあり、ピストリウス選手に不利な材料が出ているようだ。

  五輪選手の悲劇といえば、2011年5月、24歳の若さでケニアの自宅バルコニーから転落して死亡した北京五輪ラソンの金メダリスト、サムエル・ワンジル選手を思い出す。仙台育英高校に留学、高校駅伝で有名になり、トヨタ自動車九州でも活躍、マラソン選手として北京五輪で優勝した。しかし名誉と同時に富を得たため生活が乱れ始め、周辺でトラブルが相次ぎ、その死について他殺説もあるそうだ。

 「幸吉はもう疲れきってしまって走れません」という遺書を残して自殺した東京五輪ラソンの銅メダリスト、円谷幸吉選手(当時=27歳)も五輪のメダリストという重圧に押しつぶされた一人だった。

  ピストリウス選手は北京五輪の健常者のレースに出ることを希望し、400メートルで標準記録を上回った。しかし国際陸連は、彼が使用しているカーボン繊維製の義足は人工的な推進力を与えるとして健常者とのレースには使ってはならないという決定をし、五輪出場への道が閉ざされた。その後ピストリウス選手の提訴に対しスポーツ仲裁裁判所国際陸連の決定を覆し、ロンドン五輪への道が開いた。それが彼の人生を大きく変え、今回の悲劇につながったのだろうか。

  過去2回のブログのうち1回目(2007年12月22日)は「義足のランナーに五輪資格を」と書き、2回目ではロンドン五輪に出場した彼を取り上げ「ピストリウスの活躍に爽快感」と当時の印象を記した。もし当時から禁止薬物を使っていたのだとしたら、爽快感とは縁遠い話である。五輪をめぐっては、女子柔道ロンドン五輪メンバーらによるコーチの体罰問題告発や日本のお家芸レスリングが2020年の夏大会の除外候補になるという暗いニュースもある。商業化、プロ化へと走り続ける五輪。これでいいはずがない。

 

過去のブログ

 

2007年12月22日 http://hanako61.at.webry.info/200712/article_9.html

2012年8月14日 http://hanako61.at.webry.info/201208/article_4.html