小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

776 琵琶湖一周の旅の途中に(続) 末川博氏の人生3分割論を実践する人

画像 琵琶湖の北側にある高島市マキノ町で会った高橋英夫さんが実践している「人生3分割論」は、民法学者の故末川博氏が提唱したものだ。

 人生は、第1段階が「生まれてから25歳」までの「人の世話になる期間」、第2段階が「25歳―50歳」までの「世の中に尽くす期間」、そして第3段階の50歳―75歳」までの「自適の期間」―の3つに分けて送るのが理想という考え方だ。

 平均寿命が伸びたため、3段階は少しずつずれているだろうが、いずれにしてもこの3分割の考え方で人生を送ることができれば、幸せなのだろう。高橋さんは、いま第3段階を生きているという。多くの人は老後の「自適の期間」として旅行や趣味を楽しんでいる期間だ。

 だが、高橋さんは、この期間を「自分の思う通りに生きればいい」と考え、ホームレス救済のためのNPOの活動に力を注いでいるのだ。

「かつての日本は、努力して働いていれば必ず報われるチャンスがあった。だが、いまはそういう時代ではなくなり、肩書き社会になってしまった。いい大学、いい会社を目指し、地方は疲弊し、都会から弾き出された人たちの働く場所もなくなっている」

 高橋さんは社会から弾き出され、ホームレスになった人たちを引き取り、マキノ町の住宅に住んでもらい、琵琶湖特産の淡水魚「ホンモロコ」の養殖に取り組んでいる。第2段階の「世の中に尽くす」期間の延長のように見えるが、高橋さんに言わせると、思い通りに生きているので、これが「自適の期間」なのだそうだ。

 高橋さんは1946年に京都で生まれ、第1段階は苦労の連続、第2段階は雌伏期間を経て自立、立志伝中の人になる。現在はマキノで単身生活を送り、金曜夜に2時間かけて京都の自宅に帰り、月曜にはマキノに戻る「金帰月来」の日々だという。

 日本はものすごい勢いで高齢化社会が進行している。だが、第3段階の「自適の期間」を思い通りに送ることができる人はそう多くはないのではないか。高橋さんの生き方を見ていて「悠々自適」よりも、こちらの方が年をとらないのではないかと思ったが、どうだろうか。