小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

257 どこへ行く「ゆりかごから墓場まで」

ゆりかごから墓場まで」は、社会保障制度の先進国、イギリスの社会福祉政策のスローガンで、日本もこれを指針とした。しかし、いまやこのスローガンは死語になりつつある。

  かつてばらまき福祉といわれたほど日本政府は社会保障で大盤振る舞いをした。それはバブル期まで続いた。そして、いま日本は政治家、官僚のだれも責任を取らないまま800兆を超える借金大国となり、老人には住みにくい国になりつつあるのだ。その典型が今月からスタートした「後期高齢者医療制度」という、なにやらいやな名前の訳の分からない制度だ。

  75歳以上の高齢者の保険料が年金から天引きされることになった。「後期高齢者医療制度」はスタート直後に福田首相の指示で「長寿医療制度」という名前に変更になったそうだが、説明不足もあって高齢者の不満が続出している。天引きというやり方は、満遍なく取れるので、役所にとっては都合がいい。だが、市町村が半分近く負担していた国民健康保険に比べ、この制度は自治体の負担は少なく、保険料が増えた老人世帯も多いようだ。120兆といわれる高齢者医療費を賄うための苦肉の策とはいえ、やり方が姑息だ。

  日本は急速に高齢化社会が進行中だ。それだけに、医療制度を含めたさまざまな対策が必要であるのは論を待たない。だが、やはり昨今の政治は高齢者に冷たいといわざるを得ない。

  今度の問題だけでなく、昨年は地方分権のためにという理由で国(所得税)から地方(住民税)へ3兆円の税源委譲が行われた結果、年金にかかっていた所得税が減った代わりに、住民税が大幅に増えた。負担額は変わらないという触れ込みなのに、定率減税が廃止になったこともあって実質的負担増になったと、先輩はため息をついていた。

  いま年金制度に対する国民の不安は大きい。社会保険事務所の窓口は、自分の年金について問い合わせをする人で混雑している。そんな中での、75歳以上の保険料天引きの見切り発車は、やはり拙速だ。昨今の世相を見ていると、他人を思いやる精神が欠如しているとしか思えない。それが、政治家、官僚の間に蔓延しているとしたら、国民は不幸である。