小径を行く

時代の移ろいを見つめた事柄をエッセイ風に書き続けております。現代社会について考えるきっかけになれば幸いです。筆者・石井克則(ブログ名・遊歩)

国際

2033 ドラマチックな五輪の人間劇 負の側面目立つ東京大会

市川崑の監督による記録映画『東京オリンピック』が完成したのは、五輪開催から4カ月経た1965年2月末だった。しかし、オリンピック担当大臣だった河野一郎や文部大臣、愛知揆一らの「記録性を無視したひどい映画」(河野)、「この映画を記録映画とし…

2032 闇深き国際事件に挑む 春名幹男『ロッキード疑獄  角栄ヲ葬リ巨悪ヲ逃ス』

私にとって、ロッキード事件は記者活動の第二の原点だった。記者としてのスタートは東北・秋田であり、その後仙台を経て社会部に異動した。間もなくこの事件がアメリから波及し、末端のいわゆるサツ回り記者として、かかわることになった。春名幹男著『ロッ…

2029『星の王子さま』作者の鮮烈な生き方 佐藤賢一『最終飛行』

アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ(1900~1944)といえば『星の王子さま』の作者として知られるから、多くの人は童話作家だと思うかもしれない。もちろんこの童話はサン=テグジュペリの代表作といえるだろうが、それだけでなく『夜間飛行』や…

2027 異常・異例五輪開催へ ワクチン効果減少も懸念

コロナ禍が続く中で、スポーツが大きな話題になっている。23日から始まる東京五輪は、東京に4度目の緊急事態宣言が出されることが決まったことから、まん延防止重点措置が継続される神奈川、埼玉、千葉を加えた4都県で開催する競技は無観客開催となった…

2018 五輪は滅亡への道か 極度な緊張を強いられる東京

コロナ禍によって世界が混乱に陥っている中、1年延期された東京五輪・パラリンピックの開催が迫ってきた。「安心・安全な大会を目指す」という言葉が開催当事者から繰り返されても、中止を求める声は根強い。作家の沢木耕太郎は、1996年の米アトランタ…

2012 どこを向く新聞社 孤軍奮闘・信濃毎日の社説

新聞各社は東京五輪・パラリンピックについて世論調査を実施し、開催中止や再延期の声が強いことを伝えている。しかし、新聞社自体がコロナ禍での開催についてどのような姿勢なのか、よく分からない。そんな中で長野県の地方紙、信濃毎日新聞(信毎)が「政…

2009 歴史に刻まれるミャンマー民衆への弾圧 ゴヤの『1808年5月3日』想起

クーデターによって政権を奪ったミャンマーの軍事政権が、これに反対する市民に容赦なく銃を向け、虐殺を繰り返している。その光景はスペインの画家、フランシスコ・デ・ゴヤ(1746~1828)の『1808年5月3日』(あるいは『1808年5月3日…

2008 世界が問われる力試し『岸恵子自伝』から

「世界を覆うコロナ・ウイルスが世の中をどう変えるのか、人間の力試しが答えを出すのだろう」……これは、女優で作家、国際ジャーナリストの岸恵子さんが自伝『岸恵子自伝 卵を割らなければ、オムレツは食べられない』(岩波書店)の中で、コロナ禍に触れた一…

2005「命に大小はない」 ワクチン提供に戸惑う五輪代表

「進むも地獄、退くも地獄」という言葉がある。私は好きではない。「前門の虎後門の狼」も同じだ。どっちを選んでもイバラの道なのだ。これでは逃げ場がない、出口がないではないか。せめてどちらかに行けば少しは展望が開けてほしいと思うのが人情だ。だが…

2002 五輪が歓迎される時代の終焉 竹ヤリ精神で乗り切れるのか

BS放送で映画『グラディエーター』(ローマ帝国時代の「剣闘士」のこと)を見た。以前にも見たことがある、ローマのコロッセウム(円形劇場=闘技場)で闘う剣闘士を描いた大作だ。既にコロッセウムのことを書いたブログでも紹介しているのでここではその内…

2001 10年以上前にパンデミックを警告「こちらからウイルスを見つけに行け」と

10年以上も前に、新型コロナ感染症の出現を予言するような記事が書かれていた。当時、深く考えずに読み流した。感度が鈍かったのは、私だけではないようだ。《はたして人類を襲う『次のパンデミック』は豚インフルエンザなのか、それとも鳥インフルエンザ…

1999 あるジャーナリストの短い生涯『そして待つことが始まった 京都 横浜 カンボジア』を読む

20世紀は「戦争の世紀」といわれた。第1次に続く第2次世界大戦終結後も、世界の戦火は消えない。このうちアジアが戦場になったベトナム戦争、カンボジア紛争(内戦)では多くの記者たちが命を落とした。この中に共同通信社の石山幸基記者も入っていた。…

1998 新緑の季節がやってきた ブレイク「笑いの歌」とともに

特権をひけらかす テムズ川の流れに沿い 特権をひけらかす 街々を歩きまわり ゆききの人の顔に わたしが見つけるのは 虚弱のしるし 苦悩のしるし (寿岳文章訳『ブレイク詩集』「ロンドン」岩波文庫) この短い詩を書いたのは、イギリスの詩人で画家、銅版画…

1994 鎮魂の季節は4月 比島に消えた父

鎮魂の季節といえば、8月だ。だが、私にとっての鎮魂の季節は4月なのである。それはなぜか。76年前の4月、日本から海を隔てて約3000キロのフィリピンでは、私の父を含む日本軍の兵士、民間人らおびただしい人々(50万人以上といわれる)が米軍と…

1985「不正のない国で暮らしたい」ミャンマー・デモ参加の女性に学ぶ

「自由で幸福で不正のない国で暮らしたい」。だれでもがこの言葉に異存はないはずだ。わが日本。自由はまあまあある。幸福はどうだろう。健康で文化的で普通の暮らしができ、家族や友人に恵まれていれば、まあ幸福か。自分が幸福かどうかは、人によって受け…

1982 子どもの目は常に幸福 ラオスでの出会い

「目は心の窓」ということわざがある。マスク姿が常態化している日々。これまで以上に、相手の目元が気になる人が多いのではないか。国会中継をテレビで見ていると、政治家の目は暗いし虚ろな目もある。それに比べれば、子どもの目はきれいで気持ちがいい。 …

1971 ラッセルの警告が現実に 人類に未来はあるか

「人類に未来があるか、あるいは破滅か。その解答の出ないまま私は死んでいく。ただ私の最後の言葉として遺したいのは、人類がこの地球に生き残りたいと思うならば、核兵器を全廃しなければならない」。イギリスの哲学者、バートランド・ラッセル(1872…

1965 世界の人々を鼓舞する少女 ロッカクアヤコの奇想の世界

伊藤若冲は最近人気が急増している江戸時代の絵師です。高い写実性に加え、想像力を働かせた作品が特徴であることから「奇想の画家」と呼ばれているそうです。私は若冲の系譜を受け継ぐ現代の画家は「五百羅漢図」を描いた村上隆だと思っているのですが、最…

1956 心に響く政治家の訴え 日本の首相は劣勢

画家のゴッホは、弟テオと親友の画家エミール・ベルナールに多くの手紙を書いている。その内容は含蓄がある。例えば、ベルナールに出した手紙(第4信)(岩波文庫)の中で言葉について、こんなふうに書いている。「何かをうまく語ることは、何かをうまく描…

1945 トランプ氏は「魚を与える」人? 出典は何か

「トランプのやっていることを見ていると、『魚を与えるのではなく、魚の捕り方を教えよ』ということわざを思い出したよ」。テレビで米大統領選の投開票直前の特集番組で、白人男性がこんなふうに、トランプ大統領の4年間の政治について語っていた。含蓄の…

1941 過ちに気づき始めた世界の人々 核兵器禁止条約発効へ

核兵器を全面禁止する核兵器禁止条約を批准した国・地域が発効に必要な50に達した。中米ホンジュラスが新たに批准したことで、90日後の来年1月22日に発効することになった。それでも岸防衛相は「核の保有国が加われないような条約で、有効性に疑問を…

1938 嫌な時代と嫌な奴ら 好学の士いずこ

アインシュタインと湯川秀樹はだれでも知っている理論物理学者で、ノーベル賞受賞者だ。米国のプリンストン高等研究所(ニュージャージー州プリンストン)に縁があり、親しい間柄だった。この研究所の創設にかかわり、初代所長になったのがエイブラハム・フ…

1925 アウシュヴィッツのオーケストラ 生き延びるための雲の糸

「人間の苦悩に語りかけ、悲しみを慰め、それをいやすよう働きかける力こそ、音楽のもつ最高の性質の一つだと信じる」。音楽評論家の吉田秀和は、『音楽の光と翳(かげ)』(中公文庫)で音楽の力について書いている。第2次大戦下、死が日常化したナチスの…

1914 核の脅威依然減らず 安らかに眠ることができない時代

安らかに眠るに核は多すぎる 小栗和歌子さん作のこの川柳は、1975年9月号の「川柳 瓦版」に掲載されたものだ。「安らかに眠る」とは、広島の原爆慰霊碑(1952年建立)の碑文「安らかに眠ってください。過ちは繰り返しませぬから」(雑賀忠義広島大…

1908 魔手から子どもたちを守れ コロナ禍の少数山岳民族地帯の現状

「人里離れた地域や経済的に困難な家庭環境にいる子どもたちが、様々な危機に直面しています」。山岳少数民族地域など、アジアの辺境で学校建設を進めているNPOアジア教育友好協会(AEFA)の会報30号に、新型コロナウイルスがこの地域の子供たちに…

1905 アメリカへ社会の病根の深さを抉った本 対岸の火事視できない日本

アメリカ中西部ミネソタ州の白人警官による黒人男性暴行死事件(ことし5月発生)に抗議するデモが全米に拡大している。この背景にあるのは、言うまでもなく人種差別と深刻な格差社会である。その象徴のような存在に思えるトランプ大統領を「金儲けと貪欲一…

1903「星月夜」に一人歩いた少年時代 想像の旅フランス・長野・茨城・富山へ

ゴッホが、代表作といわれる『星月夜』(外国語表記=英語・The starry night、フランス語・ La nuit étoilée、オランダ語:・De sterrennacht=いずれも邦訳は星の夜)を描いたのは1889年6月、南フランスのサン・レミ・ド地方プロヴァンスにある修道院…

1869 釈迦の生誕とミロのヴィーナス 4月8日は何の日か

灌仏(くわんぶつ)の日に生れ逢う鹿(か)の子(こ)かな 松尾芭蕉 旧暦4月8日に仏教の開祖・釈迦(ゴータマ・ブッタ、ゴータマ・シッダッタ)が生誕したという伝承に基づき、日本では毎年4月8日に釈迦誕生を祝う仏教行事・灌仏会(かんぶつえ。仏生会、浴仏…

1868 コロッセウムは何を語るのか 人影なき世界遺産

新型コロナウイルスによって、観光立国イタリアは大きな打撃を受けている。著名観光地は軒並み閉鎖され、年間400万人が訪れるといわれるローマのコロッセウム(ラテン語、コロセウムとも。イタリア語ではコロッセオ)も例外ではない。古代遺跡の閉鎖を説…

1866 科学には国境がない かみしめたいパスツールの言葉

第一次世界大戦が終結したのは1918(大正7)年11月のことだった。この年の3月初めに米国カンザス州の陸軍基地から発生したとみられるインフルエンザA型(H1N1型)は、欧州戦線に従軍した米軍兵士を通じてヨーロッパに伝わり、さらに世界的流行(パ…